春爛漫、伊豆半島バスの旅(4)
伊豆から戻って、はや一ヶ月。
いまや写真はデジタルデータだから一回の旅行で何百枚も撮ってしまう。そのデータを帰ってから整理しないとタダの溜まったゴミになる。それは「体験の記憶」も同じだろう。旅行した行程を復習し、経験したイメージを整理しないとゴチャ混ぜになって思い出せなくなる。
今回の伊豆旅行の写真や動画データを見直して、数日おきにブログに書き起こしてきた。こんなことをしているおかげで旅行中の記憶が呼び戻され、体験が鮮明になり意識に深く刻まれていく気がする。伊豆旅行の回顧も今回が最終回だ。
さて、バスで下田へ向かった
松崎から下田へ向かう路線バスは、6キロにも及ぶ長い桜並木に並行して走った。
「お~キレイキレイだっ」
川面に桜吹雪が舞い散る贅沢な景色を存分に堪能した後、険しい山道へ入る。
県道15号下田松崎線は、バサラ峠をトンネルで超えて東伊豆へ向かった。
この辺りの地図を見たときに「バサラ」の文字が最初に目に止まった。
「なんでこんな所にバサラ…?」
私の知識の「バサラ」は、南北朝の頃の時代風潮をあらわす用語で、バサラ大名のような< 非常識で奔放。いわばパンクロッカーのような人目を惹くふるまいをする事や者のこと >だった。どうしてそれがこんな伊豆の山奥の峠名なのか?すごく不思議だった。
「バサラ」は漢字では「婆娑羅」。
後で調べたら、サンスクリット語で「金剛(ダイアモンド)」のことで「素晴らしい」という意味の表現のこと。そういえば十二神将のひとつに「バサラ大将」がいる。こちらは漢字で「伐折羅大将」で、金剛力士も同類になる。
伊豆の「バサラ峠」は、この山で弘法大師が「婆娑羅三摩耶経」を修したことからその名が付いたと言われている。その意味では私が知っていたものとは相当違っていたわけだ。
言葉ってものはなかなか奥深いものだと思った。
どうなってるの? 下田…
下田観光の「市内ルート案」は、事前に奥さんの司令により私が担当した。
観光地図をダウンロードし、目星をつけた箇所をネットで一通り検討した。しかし … 観光すべき施設は幾つもあるのだが、いずれも評判がよろしくない。
<「…の駅」とは言うけれど店舗数が少なすぎる><資料館の展示物が少ない><資料館は蜘蛛の巣がはってて管理がおろそか><値段が高い、この内容ならせいぜい半額>、そんなイマイチ評価の書き込みばかりで、お薦めするような書き込みがほとんど無かった。ロープウェー、遊覧船、海中水族館などがあるのだが、私は好きじゃない。
「オ~イ、下田ってペリーロード以外にはナンも無いぞ。」
奥さんにそう報告した。その結果、じゃ~時間が余るからバスで15分で行ける隣の「白浜」に行って広~い海岸を散歩することにしましょう。そういうことにした。
予想どうりの下田観光
「伊豆急下田駅」から川沿いをペリー像へ向かい、その後は「ペりーロード」を了仙寺まで歩いた。下田観光の目玉!「ペリーロード」はノスタルジックで良く整備されており、とってもステキだった。いずれのガイドブックにも下記のような記述がある。
< 「ペリーロード」では、平滑川(ひらなめがわ)沿いを石畳の道が続き、伊豆石やなまこ壁の家並み、柳並木が独特の風情を醸し出しています。趣のある通りには、お洒落カフェや可愛い雑貨、お土産屋さんなど目移りするお店がズラリと並んでいます。散策するだけでも楽しい場所です。>
「ペリーロード」は、たしかにガイドブックの説明のようなレトロな味わいに十分満ちていた。
でも…「えっ、これだけ?」と思った。
石畳の総延長は500mと言うのだが、両岸や小路もカウントしてるのだろう、直線では200mしかない。距離が短いから「アッという間」に見終えてしまった。スケールが小さすぎてもの足りない。
気合が入らないからマトモな写真がほとんど無い。唯一撮ったペリー像はアタマが切れてるし…
「う~ん、後はどこへ行こうか…」と思ったものの、書き込みにあったような<展示物が少なくて、蜘蛛の巣が張ってて、高すぎる>そんな施設などには行きたくなかった。
うろつきながら下田駅へ戻った(下地図の点線)。
いずれの通りも人影はまばらで、ほとんどの店はシャッターが閉まってる。「伊豆急下田駅」の周辺だけが賑わっている状況だった。
「う~ん、これではな~」
せっかく伊豆半島の先ッポまで来たのに肩透かしをくらったようだ。
下田の市内観光は寂しい限りだったな、私の個人的な感想だけれど…
下田市の観光と人口減
1961年に伊豆半島を北から南へ、伊東~下田間の45.7kmを結ぶ鉄道路線が開通しておかげで、「下田の観光」は一気に活気づいた。観光客数のピークは1987年には626万人に達した。しかしその後350万人に減少し1998~2008年の十年間はその数を維持していたものの、2015年には290万人とピークから半減した。
「人口の観点」では、下田市の人口ピークは1975年に31,700人(国勢調査)だった。しかし、40年後の2015年人口は30%弱減の 22,916 人になった。さらに2040年の将来人口予測は、ピークから半減した15,200人と推計されている。
すでに2017年に下田市は、過疎地域自立促進特別措置法(過疎法)に基づく「過疎地域」に指定された。これにより「過疎対策事業債の発行」「国税の税制特例」「地方税の税制特例に対する減収補填」等がなされることとなった。国による救済が必要な行政地区になったわけだ。
下図からわかるように、東伊豆に較べると西伊豆・南伊豆はいずれも過疎地域だ。
娯楽が多様化したから仕方ないけれど
30~40年前と比較して大衆の娯楽は多様化した。以前ならば春は花見に潮干狩り。夏は海水浴で秋は紅葉狩りで冬はスキー。せいぜい遊園地や動物園に家族で出かけるぐらいしか思いつかなかった。しかし、近ごろはディズニーランドやアウトレット。イオンモールのような大規模店舗がいくらでもあるから、家族連れも若い人も遊び場所には困らない。高速道路も張り巡らされたから、少々遠くても自家用車で日帰りも可能。さらに娯楽の多様化に加えて携帯電話には金がかかるし、いまや娯楽は他にいくらでも有る。
「旅行は最高の娯楽」なんてこと言ってるのは年金暮らしのシルバー世代のみ。頼みの綱のインバウンドもコロナで消滅しちまったから観光地は大打撃中だ!。
それにつけても「下田市内観光は…トホホ」だった。
ペリーにおんぶに抱っこだけじゃ、どうにもならんわ。
旅行して感じる地方の衰退
アタシは今、みなとみらい近辺に住んでいるから周辺環境がダイナミックに動いている。
次々に近所の空き家が取り壊されミニ宅地化され、直ぐに3階建て住戸が作られる。百メートル超えの巨大ビルもマダマダ建築され続け「こんなに次々と商業ビルを作り続けて大丈夫なんか?」近頃は少々心配になっている。
今はそういう都会に住んでるから地方の現状からは遠ざかっているけれど、ローカルな観光地に出かけることで各地の衰退振りをひしひしと感じる次第だった。
「白浜」はとってもステキなビーチだった
白浜にはその名の通り白く美しい砂浜と、青く澄んだ海があった。
白浜は、南北約700mにわたる広々としたビーチで伊豆半島最大級。海の透明度という点ではハワイよりも上と言われる。海岸沿いに伊豆最古の「白浜神社」があり北側の大岩には赤い鳥居が立っている。
砂浜の傾斜がゆるいから小さな波でも遠くまで打ち寄せてくる。潮風を浴びながらのんびりとビーチを横断した。こんなにステキな砂浜はめったに無いだろう。
下田市街で落ち込んだ気持ちが、すっかり癒された。
出川の「充電旅」で研究した
今回の伊豆旅行のきっかけは『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』だった。
この番組の<新春!絶景の伊豆半島温泉パワスポ3時間半SP>は、西伊豆町黄金崎から伊豆半島をぐるっと一周してゴールの三嶋大社を目指したものだった。ゲストは2世お坊ちゃんの石原良純と長嶋一茂。実在する名所と名産物をめぐる人情旅だから、これを見ることで南伊豆の観光地の現状がよ~くわかった。
この番組を5~6回見返して研究した。ここを旅行するのなら面白そうだし、なによりも出川たちが走った街道には路線バスが走ってるってことで出かけたわけだ。
バスの企画きっぷの「南伊豆フリーパス」は2,790円。でもこのきっぷでは修善寺から堂ヶ島のあいだが含まれていないからダメ。だから「東海バス全線フリーきっぷ」3,900円を使ったわけだ。もちろん、その都度乗車賃を支払うよりも大分お安く上がったよ。
路線バス旅はムズカシイ
最近は、「旅」のTV番組が多い。「バス旅」番組もけっこう視聴率がとれる人気コンテンツのようでいろいろ工夫して内容が進化している。でもやっぱり秀逸なのは太川陽介・蛭子能収さんの【ローカル路線バス乗り継ぎの旅】だったな。近頃は徳光和夫さんが、私の自宅近辺をのんびり紹介してくれる【路線バスで寄り道の旅】が地域理解の参考になる。
私は運転がヘタ。だから年取って運転しない方が良いと思い自家用車を捨てた。それから、今は右目の白内障が進みつつあり左右の見え方が違う。2時間も外歩きしてると「頭がクラクラ」してくるから右目を閉じて歩いてる。そういうことだから、レンタカーも極力使いたくない。
だから、もっぱら列車とバスの旅になるのだが、バスの旅を組み立てることはとってもムズカシイ。理由は、バス減便と運行ルートや時刻表のわかりにくさにある。
マイカー利用への移行により、過去20年ほどの間に路線バスの利用者数は地方に限れば80%近く減少したという。それに伴って民営バスが廃止され、地域住民の生活バスとしてデマンドバスが増えてきた。デマンドバスの運行ルートは住民用で旅行者むけじゃない走り方をする。
時刻表に関しては、今やほとんどの路線バス事業者がインターネットで時刻表を配信している。時刻表を自宅に“居ながらにして”調べることはとりあえず可能となったとはいうものの、肝心なところで案外見られないことがある。
例えばネットが更新されなくて「時刻表が数年前のまま」ってことがある。役場に電話して聞いたりするのだが、だいたいが<…は~? こちらでも~わかりません>だ。
役場職員などは状況を理解してないから全く役に立たない。「ダメだ! モウいいいよ」ガチャっと電話を切るしか無い。だから旅行で、路線バスを乗り継ぎすることはタイヘンだ!。
下田からは「踊り子号」で帰った。観光客はほとんど居ないからガラスキで、横浜まで直通だからすごく楽ちんだった。でもやはり南伊豆は遠かった。熱海あたりに日帰り入浴には行きたいが、そこから南へは、もう旅行しなくて良いカナって思った。
おわり