HCUへの入院
奥さんが救急車で運ばれたのは「高度治療室(HCU)」だった。
HCUは「集中的に経過観察が必要な術後患者が入る病室」。50畳ほどもある大スペースをカーテンでベットごとに仕切っただけの巨大部屋。この一室には24名も収容可能だと聞いた。
「医師から説明があります…」そう言われて向かったベッドに横たわっていた奥さんは、TVの医療ドラマでよく見る光景だった。
鼻には酸素吸入パイプ、手首や胸には何本かのコードがつながれていた。ベッド横には心電図・脈拍・血圧・呼吸数などが波形と数値で表示される「生体モニター」。「ピッ…ピ…」と規則的に響く電子音が緊張感を醸し出していた。
HCUの患者は注意深い監視とケアが必要ということで、看護師や看護助手さんが頻繁に経過観察来る。「大変なことになっちゃったな~」と、私はあらためて思った。
医師から説明があった。
「検査では特に原因は分かりませんでした。薬を使って血圧を徐々に下げていきますから一週間ほど入院です…」
そんな説明を受けた後、病院を出たのが夜0時だった。深夜だから病院前にタクシーなどもちろんいない。ひと気のない暗がりの道を一時間かけてトボトボ歩いて帰った。とんでもなく悲しかった。
子どもたちに連絡した。
「昨日、血圧が上がって一過性脳虚血発作なので市民病院の救急に入院しました。特に症状は今は無いけれど一週間入院して検査します。」
ところでHCUでは、大部屋のうえ老人患者が多かった。そんなことからも患者と看護師たちとの会話が大声でとってもうるさい。あちらこちらでワイワイ・ガタガタ、大部屋ゆえにHCUは騒々しい。真夜中でも大騒ぎがあったりする。
「だから、夜も目が覚めちゃうの。睡眠剤をもらっても寝つけないの…」って奥さんがこぼしてた。
当初は一般病室へ3~4日で移動するだろうと予想した。しかし血圧がなかなか下がらないことから結局6日ほどいた。
毎日、見舞いに行った
自宅から病院まではけっこう近い。直線距離で3Kmほどだ。市バスで行くと横浜駅乗り換えだから50分近くかかるが、自転車なら20分もかからない。だから雨の日以外は自転車で毎日見舞いに行った。
市民病院は2年前に新設されたばかり。以前とくらべ新病院はすごくガードが固くなっていた。面会時間は15~20時、守衛室で面会票を提出し、ネックストラップ付き磁気カード(入館証)をもらう。病室棟の入り口はそのカードを使って解除して出入りする。
ところが、HCU病室はそうした通常の方法以上に厳重にガードされている。守衛室で「HCUに入院してるんだけど…」って、申し出ても磁気カードはくれない。「行ったことあります? じゃ~分かりますよね、どうぞ。」 で、病室の入り口まではフリーで行ける。インターホンで患者名を伝えて待ってると中にいる看護師さんがわざわざやって来てドアを開けてくれる。でもさらに先にもう一つチェック付きのドアがある。2重チェックになっているからすごく厳重だ。
面会時間は20分との制限があるけれど私はいつも1時間以上いた。お茶のペットボトルを購買に買いに行ったり、奥さんからの頼まれものを届けたり帰りに洗濯物を預かったりと、話し相手になる以外にもイロイロやることが毎日あるわけだ。
40年近く勤務した北海道を離れ、そして愛知の生まれ故郷を売り払い横浜へ転居して7年目。私には幾人かの知り合いもいるけれど、奥さんの知り合いは近所に誰もいない。緊急入院しても、お見舞いに駆けつける知人・友人はいない。
「今の私たちは無人島に二人だけ…みたいなもんネ」数日前に奥さんがそう言った。
だからこそ毎日見舞いに行って励ました。
HCUは、入室するときと同じく病室から出るときにも看護師さんに申し出て二重ロックを通過しなくちゃならない。看護師さんが言った。
「次回は、いつ見えられます?」
「ああ私、毎日きています。」
「ア…、そうですか…ハ。」
看護師さんが意外そうながらも嬉しそうな顔をした。毎日見舞いに来る人は珍しいのかも知れない。
普通病室へ移った
個室は差額ベッド代がかかる。だから4名の病室に入った。
そこには4日ほどいた。HCUよりもうるささは少なくなったが、同室の患者は年寄りが多いことからいろいろ落ち着かなかった。
「でも、周囲の人間模様を伺っているとたいくつしないよ。」
見舞いに行くたびに奥さんがいろんな話をしてくれた。
❶ 隣の93歳ば~さん
この方は転倒して骨折しての入院。
私と同じくらいの年格好の頭が剥げてる息子が毎日お見舞いに来ていた。いつもお土産に食べ物(お菓子)を持ってくる。菓子・饅頭・せんべい・ポッキーなど。
「ほらね~たべてるでしょ~」むしゃむしゃ・ばりばりと、バーさんが食べてる音をカーテン越しに聞きながら、奥さんと私はクスクス笑ったりしていた。バーさんは、転んで運ばれてきた人だから何でも食べられるわけだ。
❷斜め向かい患者もバーさん
ユニクロで転んで顔面を打って運ばれたそうだ。
時おり来る女性の見舞い客は息子の嫁だそうだがすごいおしゃべりでしゃべりっぱなし。その発音から「中国人か?」って私は思っていた。でもベトナム人だという。息子がベトナムで仕事してる時に結婚したのだそうな。
私が見舞いに行っている間中、奥さんが同室者のいろんな情報を事細かに話してくれるから面白かった。でも、転んだ際に手首骨折や顔面殴打など、高齢者が転倒してひどい目に合うことには驚いた。気をつけなくちゃイカンと思った。
「富士見テラス」
入院後半になり、少し動いた方が良いからと院内散歩につきあった。最上階には見晴らしの良い「富士見テラス」があった。そこからはすぐ隣にあるサッカー場が見下ろせた。遠くには丹沢の向こうに富士山の頭が見えた。
その他 (略)
●食事指導
●退院後の「かかりつけ医」
●その後の減塩生活
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おわり






