国立新美術館は「厳戒態勢」
国立新美術館の『MANGA都市TOKYO』展へ行った。
お盆の二日目でお休みだけあり、横浜駅 9:05 発の東横線はガラすきだった。明治神宮前で千代田線に一度乗り換えるだけで乃木坂駅まで40分弱だ。すごく楽ちんで行けた。
乃木坂駅から国立新Mをむすぶ途中の地下通路に 二人の美術館職員が待ち構えていた。早くもここでヒタイの検温と手指アルコール消毒。まるで関所のようだった。
会場入口前には空港の保安検査場のようなくねくねロープ。間隔をあけるため床には2㍍ごとにテープが貼ってある。10時の入場客30名ほどが パラパラ離れて並んでいる。その横には10:30の入場客用の列が用意されていた。これまでの国立新Mとは異なる厳戒態勢だった。
さて、オープンの10時になったのだが列が動かない。
< 数名の方ごとにご案内しています。少々お待ち下さい >
5名ずつ 時間をあけて入場させるから私が入場できたのは10:10過ぎだった。のんびりしたもんだ。
超巨大ジオラマの意味 ?
約17m×22mという大きさで都内を再現した1/1000スケールの模型とその奥に設置されたビックスクリーン 。 よくもま~こんなにバカでかい模型を作ったものだ。そう最初には思ったが、会場を一回りして分かった
「こうでもしなきゃこの企画は持たなかったからだな」
ほとんどの展示物は小さな額入りのマンガの原画、あるいはアニメの絵コンテばかり。だから真ん中に「何か巨大なもの」がないことにはカッコつかないわけだ。
例えば、 ゴッホ作品は2~3点だけで他には 適当な画家の作品を寄せ集めただけの「ゴッホと印象派展」なんて企画もある。スター作家がいれば他にはちょぼちょぼでも何とかなるわけだ。
今回展では、原画やアニメの絵コンテ自体はそれぞれが大スターなんだが、いかんせん小さいからインパクトがない。じゃ~何かびっくらこかせる代物をってことで巨大ジオラマになったのでは…?そんな感じを受けた。
私としては、巨大ゴジラやビックガンダムを置いといてほしかったな。
じつは正直なところ、私はマンガってものにあまり関心が無い。
この10年間ほどは、マンガ自体を面白いと思えなかったから、ほとんどマンガを観ることがなかった。 だから、今回のこの 『MANGA都市TOKYO』展 を観に行ったとしても「何を観りゃ良いんだ?」って思っていた。
じゃ~どうして観に行ったんだ?ってことになるけど、
その理由は、単に「久しぶりに東京の展覧会へ行ってみるか」ってことだった。そして、コミケも中止なことだし、きっと「オタク」っぽい連中が見に来てるだろうから、オタク見物にでも行くかって感じだった。
だから 『MANGA…」展の内容には、ほとんど期待してなかったのでした。
これなら分かる 『MANGA都市TOKYO』展
さて、この企画がどういう内容なのかは文字で説明するのは難しい。以下の動画を見て理解してください。
マンガは浮世絵だな
原画の展示物に混ざって、ところどころに浮世絵版画が掛けられていた。
「あれ? あ…、マンガは浮世絵だったのか… 」
あらためてそう感じた。
浮世絵版画は、日本古来の平面性と斜投影に加えて西洋渡来の透視図法が混在し、独特の空間性を生み出した。今日のマンガの一コマ一コマにもさまざまに工夫した空間が描かれている。繊細なタッチで矮小に描かれた広重の人物にはこまやかな情緒が溢れている。現代マンガの多くの人物描写にも同様の味わいがある。
『鳥獣人物戯画』のなめらかな線描は手塚治虫だし、江戸末期の国芳の集中線エフェクトや視覚的効果を生かしたドラマティックさは劇画そのものだ。
やっぱり日本人の血脈は描画の中に連綿と流れつづけているのだと思った。
マンガの原画に大感激
けっきょく私は会場に一時間いた。その間ず~っとマンガの原画を見続けていた。
数十人の漫画家の原画をゆっくり観ているうち、なぜ私がこれまでマンガが面白いと思えなかったのか、その理由がわかる気がした。
それは「絵が見えなかった」からだと思う。
これまで私は、マンガを観るときには、ストーリーを追うのに忙しく「絵の細部」や「背景」なんてほとんど見ていなかった。でも今回、手描きの「原寸大の原画」からは、これまでとまったく異なる「面白さ」「凄さ」を感じた。
サンデーやマガジンなどの週刊誌でも、原画の8割り程度に縮小されている。 コミック本などの小さなサイズの印刷物では原画のサイズが縮小されることで 手描きの生々しさが失われ、作者が持っている描画への執念などはまったく消えてしまう
細部まで観ることで 一コマひとコマが生き生きして見えることにすごく驚いた。 白の修正跡や切り貼りによる修正などからは、ここまでやるのかという作者の意地と執念が 生々しく感じられた。
作者が描いた時の息吹が伝わってくるのは「 原寸大 」だからこそだと思う。「原寸大の原画」には、机にかじりついてカリカリとペンを動かしているマンガ家の姿がみえる気がした。
原画所蔵数日本一をうたうのは「横手市増田まんが美術館」。
HPに以下の記載がある。
< 今や、日本が誇る文化の一つとなったマンガ。中でも、貴重な原画の保存・展示に力を入れ、本物が持つ迫力と美しさ、 そこに込められた作家の熱量を伝えていくことによって、その魅力を世界へ向けて発信していきます。>
今回展で、まさにその意義を確認することができた。
すいてて良かった MANGA展
企画展の観客は年を追うごとに増加した。
チケットを買うのに行列し、入場するのにもまた待たされる。
数年前の『若冲展』では2時間以上並んで入場するも、観客が多すぎて頭越しにしか画面が見えなかった。これはもう鑑賞なんてものじゃなかった。
今回、<日時指定予約制>チケット の事前購入には手こずった。
でも、そのおかげで <会場は、がらスキ>だった。
数百点展示されてる「手描き原画」の画面に眼をこすりつけるほど近づいて、一つひとつのタッチやディテールまで確認できた。
これがもし「若冲展」のように、画面にも近寄れず人の波に押され、流されるようにしか見られなかったならば、 おそらく手描き原画の魅力に気づくことがなかったろう。
ゆっくりジックリ気持ちよく鑑賞できたのは、期せずしてコロナ対策の結果だった。
コロナのおかげ…?と言っては何なのだが、 この <事前予約><入場制限>システムが長続き、いや 定着することを願った。
ところで、コミケ中止で流れてきたオタクっぽい御仁がほとんど見られなかったことは不思議だったな。